葬祭文化の地位向上・発展を図る全葬連会長 石井時明さん(63)

17歳の時に葬儀社を継承し、以降約50年もの間、葬祭業に携わる。全国57事業協同組合が加入する葬儀社ネットワーク・全日本葬祭業協同組合連合会(以下、全葬連)の会長を務める。
現場を熟知しているからこそ、近年では葬儀の形と遺族らのニーズの目まぐるしい変化を感じ取っているという。
「葬祭業こそ天職だ」と自覚する自身の経験から、日本人の「祈る気持ち、見送りの心」と葬儀の実情、いま宗教者らに求められる対応について語った。
奥岡沙英子
17歳から葬祭業に携わっておられますが、そのきっかけは。
石井 父が脱サラをして、42歳の時に創業したのが「さがみ葬儀社」でした。その2年後に父は心筋梗塞で亡くなりました。当時高校2年生だった私は父が命懸けで開いた会社をつぶすわけにはいかないと思い、家業を継承しました。
当初は母が経営面を担い、私は現場で働いていました。今と違って自宅で葬儀を行っていたので、夏や冬は外仕事で大変だったのを覚えています。葬儀は昔、故人の隣近所に住む方が大勢手伝いに訪れる一大行事でした。現在ではホールや式場で行うことが多く、その分ご遺族の方もゆっくりとお見送りができる環境になったと思います。
当時も今も、これまで生きてきた人をお見送りする仕事に対しての誇りは変わりません。私にとっての天職だと考えています。
印象に残っている式はありますか。
石井 やはり、お経を上げ、法話をしていただくことも大切ですが、遺族や故人に対する言葉の有無で印象は大きく変わると思います。
何年も前に、ある方の葬儀で僧侶が導師を勤め引導を授けた後、故人の人生がどのようなものであったか語っていらっしゃいました。そして故人がこれから浄土に向かうのだというお見送りの言葉を述べていた姿は今でも覚えています。
数多くある葬儀のうちの一つではなく、亡くなった「個人」に対するたった一度の儀式であるという印象が深く残った出来事でした。ほんの少し言葉を掛けていただくだけで「このお坊さんはちゃんと私たちのことを見てくれた」という信頼感が生まれるのだと実感しました。近年では非常に丁寧で誠実な対応をされる宗教者と、そうでない方の差があるように感じます。
近頃「宗教者を呼ばない葬儀」も話題になっています。
石井 確かに現場では時折「宗教者は必要ない」というご遺族の声も耳にします。しかし実際のところ、いわゆる無宗…
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