生と死を統合する生き方を目指す医師 帯津良一さん(84)

東京大を卒業後、当時がん治療の最先端だった都立駒込病院でメスを振るった。しかし西洋医学の限界を感じ、中国医学を学ぶため北京に渡った。現地では胸がぱっかりと開いた患者から挨拶されるという衝撃を受けた。2本の鍼による局所麻酔だった。
70歳を過ぎてからは誰よりも死を意識して生きてきた。「死におののく人たちを安心させるには、その人たちよりも死に近づくこと」と話す。死と生を統合し、最終的には死に飛び込む「攻めの養生」を提唱している。
赤坂史人
中国医学と西洋医学を合わせた「中西医結合」や、人間丸ごとをみるホリスティック医学を実践されていますが、いつからですか。
帯津 大学を卒業後、都立駒込病院で食道がんの外科医として働いていました。食道がんの手術は時間もかかるし、難しさがある手術なんです。昔は7、8時間かかっていた手術が今では5、6時間になり、輸血をバンバンするほど出血したのが、私が駒込病院に行く頃には輸血なしでもできるスマートなものになってきていました。
だから「自分たちの手でがんを克服するんだ」と意気軒昂としてやってたんですよ。でも、その割に再発する人があんまり減らないんですよね。昔と比べて。治療法が進歩しているのに治療の成績が変化しないというのは、何か西洋医学に限界があるんじゃないかと思いました。
結局、西洋医学というのは病気の局所をみるのにはたけていますが、どうも周りの臓器との関係とか、人間全体との関わりに関心を持っていない。それがいけないのではないかと思った。その点、中国医学は物事のつながりを見る哲学、陰陽学説や五行学説が基になっていますからね。
それで中国に学びに行ったのですか。
帯津 そうです。当時、北京市に肺がん手術の世界的な権威・辛育令先生がいて、2本ほどの鍼(鍼麻酔)で手術していたんです。それを見学させてもらった。私が手術室に入ったら、外科の先生3人がパッと手を止めて歓迎の会釈をするんですよ。日本人の外科医はそんなことしませんよ。患者の方が大事ですからね。だから「ずいぶん、のんびりしてるなぁ」と思った。そしたら、ひょいと患者さんも挨拶するんですよ。胸がぱっかり開いているのに……。
患者には意識があったのですか。
帯津 鍼麻酔は意識が落ちませんからね。手術後、辛先生に聞くと、鍼麻酔は効く人と効かない人がいるが、素直な人が効くというんです。私が「素直か素…
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