現場の視点に立って貧困問題に取り組む 大西連さん(33)

NPO「自立生活サポートセンター・もやい」の理事長として、野宿者のアパート入居支援や生活困窮者の相談支援、社会的孤立を防ぐための交流事業、社会の仕組みを変えるための政策提言などの陣頭に立つ。困難な現実にも屈せずに、あくまで現場の視点に立った支援の重要性を訴える。
佐藤慎太郎
生活困窮者の支援に取り組むきっかけは。
大西 2010年の春、友人に誘われて社会科見学気分で炊き出しに参加したことです。リーマン・ショック後の不景気を引きずってか大勢の人が並んでいました。
その中の一人の男性にカレーを渡そうとした時に手と手が触れてしまって、無意識に自分の手を引っ込めてしまったんです。相手は嫌な顔もせずに「いつもありがとう」と声を掛けてくれたのですが、かえって心がチクチクと痛みました。
自分の深い部分に差別の心があるのだと自覚させられ、驚きと恥ずかしさに顔を覆いたくなるような気分でした。実は、引きこもりやフリーターを経て、ちょうど自分自身も普通の人生のレールから外れかけていることに悩んでいた時期でもありました。ちっぽけな自尊心かもしれませんが、「このままでは終われない」と貧困問題に本格的に関わることを誓いました。
どのように変わられましたか。
大西 必要性とやりがいを感じました。夜回りをしていると、よく知っている通りを一本入った路地で野宿をしている方がいること、そしてそこに向けられる通行人のまなざしの冷たさ。支援する自分たちにも同じような視線が向けられることもありました。
そうやって出会った人たちには、それぞれに名前やこれまで歩んできた人生があります。時にはカップ酒を交わしながら生身の人間同士のコミュニケーションを通じて信頼を得ていく過程が何より楽しかったですし、今の自分の核にもなっています。
そして信頼されたからには、信頼で返さなければなりません。アパートへの入居を希望する人や病院へ行きたい人がいて、それをどうやったら実現できるか、考えなければならない現実が突き付けられるようになりました。
福祉などを専門的に学ばれたのですか。
大西 そういう意味では素人です。でも無知だからこそ、専門家が「そういうもの」と思いがちな既存のルールのおかしな部分に異議を唱えることもできるのではないでしょうか。何十年も前に作られたもので、社会の変化に対応できていないルールはいくらでもあります。し…
つづきは2021年4月14日号をご覧ください