宗教者と共に患者を癒やす病院経営 古倉みのりさん(56)

経営する病院では昨年から伝教大師最澄の言葉「一隅を照らす」を法人理念に掲げる。天台宗総本山比叡山延暦寺(大津市)の僧侶を招いて院内法話会を開き、「一隅を照らす運動」の理事も務める。「医療者と宗教者で共に患者さんを癒やしたい」との思いで地域医療の充実に努める。
日野早紀子
経営する甲南病院(滋賀県甲賀市)の法人理念として「一隅を照らす」を掲げていらっしゃいますね。
古倉 昨年4月に制定しました。伝教大師最澄様の『山家学生式』には「一隅を照らす 此れ則ち国宝なり」と書かれてあります。「自分が今いる場所で、自分がなすべきことに一所懸命に取り組む。そういう人は必ず輝く。その一隅を照らす光が一つ二つと増えていくことで社会が優しい光に包まれる。そういう生き方に努める人が国宝的人財」という意味です。
新約聖書の「エフェソの信徒への手紙」に「光の子として歩みなさい。光から、あらゆる善意と正義と真実が生じるのです」という一節があります。幼い時に水口幼稚園(同市)で教わったこの聖句は、私の生き方の指針となっています。
勝手な解釈でお叱りを受けるかもしれませんが「一隅を照らす」という最澄様のお言葉と「光の子らしく歩きなさい」という聖書の一節は、どちらも思いやり、いたわり、慈しみの心を持って生きることを示してくださっているのではないかと私は感じています。
どうして延暦寺の僧侶に院内法話会をお願いしようと考えたのですか。
古倉 父の後を継いで39歳の時、2005年に理事長に就任しました。無我夢中で病院経営や内科医としての仕事に取り組んできましたが、8年目を迎えた時、ふと立ち止まり周りを見渡しました。そこにはベッドの上で天井を見るだけの生活となっている高齢の患者さんの姿がありました。戦争を乗り越え、家族を守ってきた人生の大先輩が何か諦めているように見えました。老い、病を背負い、死に近づいておられる患者さんの不安や寂しさ、絶望感を少しでも和らげるために自分に何ができるのか。こう考えた時、命や魂のことをお話しいただくことのできるお坊さんにお願いしてみようと考えました。
14年8月に延暦寺様に、院内法話会開催をお願いするお手紙を送りました。お返事を頂き、小鴨覚俊教化部長(現総務部長)にご訪問いただきました。同年11月に1回目の法話会が開かれ、小堀光實・延暦寺執行(現在は三千院門跡門主)に「今を…
つづきは2022年6月8日号をご覧ください