日本の伝統を重んじる庭園デザイナー 桝井淳介さん(51)

国内最高賞の日本造園学会賞を受賞した。作庭家、枡野俊明・曹洞宗建功寺住職の下で多くの寺社庭園に携わり、現代感覚を取り入れながら、伝統技法を身に付けてきた。「人々が参加することで芸術は完成する」と考え、共に育てていく庭造りに力を入れる。
有吉英治
日蓮宗実相寺の「壱天四海の庭」が学会賞に輝きました。
桝井 松永慈弘住職と話しながら煮詰めていったんですが、この世で生きている間に幸せにという日蓮聖人の願いを中心に、お寺の歴史や仏教の教えを感じてもらえる庭にと考えました。象徴となる灯籠を真ん中に置き、長くお寺を見守ってきた槙の古木は、敬意をもってそのまま残しました。この大きな槙の木にまず目が引き付けられ、そこから視点が移る右手に日蓮聖人に見立てた大きな石、左に戻って灯籠、その間に白い小石を敷き詰めた曲線と、視線がゆっくり全体に回っていく作りになっています。
客殿の床の間の前に座って見るのが一番美しいと思うんですが、ここから全部が見えるわけではないんです。大きな石が四つありますが、ここからは三つしか見えません。場所によって目に入るものが違い、いろんな発見があると思います。答えは一つではありません。見る人ごとに四季折々、感じられる草木の色や匂い、風、空間の広がりから、いろんな解釈をしてもらえるとうれしいですね。
それが日本庭園の特徴ですか。
桝井 庭に限らず日本の芸術に共通すると思うんですが、西洋・東洋というより大陸と島国の違いかもしれません。大陸は領地の奪い合いが熾烈で、境界線をきっちり決めなきゃいさかいが起きる。芸術においても、これはこういうものですときっちり表現していく。西洋絵画はリアルに伝えたいことがはっきり分かるように描かれています。
島国の芸術は、それほど解を必要としない。墨絵なんかもふわっと描かれていて、大きな紙の隅の方に小さく松があって、それで霧が感じられたりする。この余白が大事で、見る人が参加できるんです。そこに雲を見つけた人もいれば、鳥がいるかもと思う人もいる。この日は冬だと感じる人もいれば春だと思う人もいる。それぞれが自分なりの解を持ってくるというのは、ただ受け取るだけでなく参加しないとできないですよね。絵と見る人の会話がある。庭もそうで、必ずしも一つの解を持っていないんです。我々がいいと思うのは、共に生きる庭とでもいうものなのかもしれません。
人の…
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