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架空文献で権威づけ 「珍事件」はなぜ起きた?

2019年5月29日 12時56分

あるドイツ神学思想史の研究者が実在しない学者の所説を「創作」して自説の基礎付けに用い、それが確認されて懲戒免職に処せられるという事件が最近あった。他人の著作の改ざんや盗作は間々あることだが、学術書の中で著者まで「創作」するとは誠に奇想天外な珍事である。

1970年にイザヤ・ベンダサン著・山本七平訳『日本人とユダヤ人』が山本書店から出版され、「日本人は水と安全はタダで手に入ると思っている」など秀抜な警句でベストセラーとなり、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した。しかしベンダサン氏は姿を現さず、その動静はもっぱら山本氏が代弁し、大宅賞の授賞式にも山本氏が「代理」として現れたので、実は山本七平氏こそがイザヤ・ベンダサンだという説が一般化した。山本氏はそれを否定し通したが、イザヤ・ベンダサンの実在は今日まで確認されていない。

もし推測通り山本氏がイザヤ・ベンダサンなら、山本氏は著者と作品を「創作」して公表したことになる。しかし山本氏は、上記の研究者とは違って、道義的に非難されることはなかった。なぜかといえば、自著をペンネームはもちろん偽名を使って出版するだけなら古来例のあることで、不正とは見なされないからである。例えばセーレン・キルケゴールは書物の性格に応じて実名と偽名を使い分けた。

しかし山本氏らは、なぜわざわざ他人の名を使って自説を述べたのだろうか。これは推測の域を出ないが、日本人には――西欧国籍のユダヤ人を含めて――欧米人の説には耳を傾けるが、自国人の主張は無視ないし軽視する傾向があるからではないだろうか。明治維新以来、我が国は政治、法律、経済の諸制度や学問だけではなく慣習まで欧米から移入した。日用品でも「舶来」品が珍重された。哲学やキリスト教学のように、西欧に長い歴史と蓄積がある領域では「洋学祖述」が一般的で、日本人の業績は独自のものでも顧みられないことがあった。例えば西田哲学は伊藤吉之助編『岩波 哲学小辞典』(1950年第8版)にはまだ載っていない。論者は注目されるために西欧人の所説によることを顕示する傾向があった。

しかし戦前とは違って、現在では欧米の側で「人種差別」が排されている。その程度は、少なくとも部分的には、日本人が想像する以上である。我が国に人種的文化的な差別・自己差別がなお存在するならば、権威随順の悪癖と共に、もう脱却してもいい頃ではないか。

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