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川崎無差別殺傷事件 「無敵の人」の誤用を考える

2019年6月14日 10時48分

先頃発生した川崎市での無差別殺傷事件は、長期間引きこもりだった51歳の男の凶行だった。その数日後、引きこもりの長男=当時(44)=が父親に殺害されるという痛ましい事件が続いた。同じような事件を起こすことを父親が恐れたと報道されている。

事件の内容や背景は異なるものの、中高年に差し掛かった引きこもりが焦点になっている点で共通する問題がそこにある。40~64歳の中高年の引きこもりは、推計61万人を超えるという。そうした家庭では、老親虐待、介護離職、経済困窮などの問題を抱えている。引きこもりが長期化すればするほど、社会復帰は困難となる。最悪の場合、前途を悲観して自暴自棄になってしまう危険もある。引きこもりに対する見守りや、社会復帰を促す仕組みをつくるための議論が不可欠だ。

その一方で、おかしな方向に流れる議論も一部に散見された。とりわけ川崎の事件では、様々な言説が飛び交った。「死にたいなら一人で死ねばよい」とテレビ番組で発言した落語家に対して、それはあまりに無責任だと批判がなされた。同じく厳しい批判を浴びたのが、犯人を指して「無敵の人」と呼ぶ言説である。この言葉は、ネットスラングに由来し、何も失うものを持たない人間を指す。金や家族、仕事や地位、そして自分の生命すら要らない。そんな人間が自暴自棄になれば、もはや自分にブレーキがかからず、人々を巻き込む凶悪な犯罪を起こしてしまうというのだ。

ここでは本来、積極的な意義を持つ「無敵」という言葉が、最悪の意味合いへと反転してしまっている。社会的、経済的に失うものがないから、破れかぶれになって破壊的な行為に走るのが「無敵の人」だという。この言い方は、そんな人間ならばそれでよい、死にたいなら一人で死ぬべきだという、突き放した態度とも容易に結び付きかねない。

だが、このような言い方は、本来の使用法を全く誤ったものだ。この世で何も失うものがないことは、この世に自由に関わることができることを意味する。こうした自由な立場から世の中を眺めれば、人の世がいかに苦しみに満ちているかが見えてくる。そこに気が付けば、自らの一身をなげうって人々のために尽くす人生を選ぶこともできる。このような人間こそ、本当の意味での「無敵の人」と言うべきである。宗教者の理想は本来、そうした人間の姿であろう。この言葉の誤用への最も有効な反証は、まさにそのような宗教者の生きざまではないだろうか。

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