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市場原理はなじまぬ 「森」と人との共生社会

2020年5月13日 13時34分

「今だけ」「自分だけ」の損得しか考えず、不都合なツケは後世に転嫁する政治、社会潮流の下で、半世紀先の樹木の生育を待つ日本の林業が危うい。安倍政権の成長戦略で民間資本による森林伐採の促進策が相次ぎ法制化されたことが大きな要因だ。悠久の自然に育まれた森が、目先の利益を追う市場原理に浸食され始めている。

森は寺院に使われる木材の「故郷」でもあるが、法隆寺や薬師寺金堂などの堂塔復興で知られる宮大工の故西岡常一氏が次のような文章を残している。

「木を生かすには自然を生かさねばならず、自然を生かすには自然の中で生きようとする人間の心がなくてはならない。その心とは永遠なるものへの思いでもある」「飛鳥の匠は、木と少なくとも千年先を相談しながら伽藍を建てたろう」(『「口伝」の重み』より)

堂塔の解体修理でスギは700~800年もち、ヒノキは千年以上びくともしないことが分かった。その耐久性が法隆寺以来、日本が誇る木の建築文化を支えてきたが、山が荒れ果てては元も子もない。西岡氏は「木の文化」を語るのならば、まず息長く「山を緑にする」志が欠かせないと説いた。

歴史上、日本は森が乱伐された時代が幾度かある。先の大戦でも荒廃したが、その後の造林ブームで植えられたスギやヒノキが今、伐採期を迎えている。とはいえ国の対応はいささか乱暴に過ぎる。

木材価格低迷などで民有林の伐採が進まないため安倍政権は昨年4月、自治体も介入させ民間企業に伐採を委託できる森林経営管理法を施行した。さらに森林の3割を占める国有林について先月施行の改正国有林野管理経営法で、外資を含む民間業者に1カ所で数百ヘクタールの広大な森林を最長50年間伐採できる権利を与えた。山全体をはげ山にする皆伐もできる上、業者はその後の植林を義務付けられておらず、はげ山を放置しても罰則はない。市場原理の勢いにのまれ、山を育てる「木の文化」の理念は霞んでしまったようである。

森林は水資源や生物多様性の保全、水害や地球温暖化の防止など無限の役割を担う。大規模な伐採行為は国際社会の要請にも逆行する上、政策決定の過程が不透明という強い批判があるが、大きな声にはなっていない。

皆伐された山の復元は困難を極めるといい、植林の人手も足りない。既に伐採された山林の多くは再生できず、度重なる災害の原因にもなっている。長く森の恵みを享受しながら今後懸念される状況には無関心で済むことではない。

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