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想像力を働かせたい 命にかかわる介護崩壊

2020年7月10日 10時38分

古く「桐一葉落ちて天下の秋を知る」という俳句がある。豊臣秀吉の死後、豊臣家の落日を紋所の桐になぞらえて詠んだものだが、もともとは中国の古典が出自のようで、自然界のわずかな事象の変化から世の行く末をくみ取った。先人は世相の流れを知ることに研ぎ澄ませた注意力や想像力を懸命に働かせていたのだろう。

翻って今の時代はどうか。役所発のお仕着せの報道を含め、日々あふれかえる情報に多忙な現代人が深く考えて接することは少なかろう。自戒を込めてのことだが、惰性的に情報を聞き流していると、本来人に備わった状況の変化を読み取り、思考する能力は徐々に曇らされていくようである。例えば1947年から3年間に生まれた団塊の世代は計806万人に上るが、その全てが85歳以上になる15年後の社会を想像できるだろうか。

85歳を超えると、半数以上の人は何らかの介護が必要とされる。一方、国の試算では15年後、介護職は79万人不足しているという。介護を受けられない人を一口に介護難民と言っても様相は千差万別だ。特別養護老人ホームなど介護施設に入れない重度の単身者は、介護されないまま在宅で孤独死せざるを得ない悲惨なケースが続出しているかもしれない。

介護職の不足は今も年々拡大しており、いずれ100万人に達するという推定もある。介護保険が始まって今年で20年が経過するが、介護の人材がいないと保険料を払ってもサービスを受けられない。その事態がすでに一部で生じ始めているといわれている。

介護職が敬遠されるのは全産業平均より月収が約9万円低いことに加え仕事の過酷さへの偏見があり、社会のリスペクトも欠けるなど複雑な要因が重なっている。訪問介護の場合、そもそもヘルパー自身も3人に1人は60歳以上で高齢化が進んでいるようだ。

5年前、安倍晋三首相は家族の介護のため年間10万人近い人が勤め先を辞める介護離職を2020年代初めまでにゼロにすると公言したが、今も成果が上がっているようには見えない。対策が施設整備に偏り、介護職の待遇改善策が伴っていなかったからとされる。

こうした問題は、少なくとも日本が高齢社会に入った1994年には予測できたはずだが、時代は「桐一葉」の先人のような想像力を持たなかった。加えて新型コロナ禍で高齢者らに濃密に寄り添わねばならない介護の仕事が新たな試練に直面し、介護崩壊が懸念されている。命に関わる難題に目を背けることは許されまい。

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