VRで死者との再会 仮想現実で描く死後の世界
今年2月に韓国のMBCが制作したドキュメンタリー番組『ミーティング・ユー』が放映され、韓国内で大変な反響を呼んだが、その内容故に国際的にも関心が広がった。番組では、母親が急死した幼い娘とVR(バーチャルリアリティー)の技術を使って対面し、それを見守る家族の様子が放映された。制作に当たっては、母親が何を望んでいるかを理解するために話し合いを重ねたという。
母親はVRの装置を頭に着け、亡くなった娘と会話するが、母親に娘がどう見えているかの映像も挿入されている。娘と会話し、手を伸ばすと触れる感覚になる。その映像を見て家族やスタジオの人が涙を流す。娘との再会の場面のビデオクリップはユーチューブにもアップされ、8月中旬時点で2100万回以上視聴されている。『ニューズウィーク』誌は6月30日号で「死者を生き返らせる仮想現実の技術が突き付ける疑問」として論評を加え、この番組が倫理的な問題を含むことを指摘した。
VRは仮想現実と訳されるが、似た技術にAR(拡張現実)やMR(複合現実)などがある。VRはARやMRに比べて映像への没入度が高くなるとされる。この中で没入度が最も低いとされるARは実際の光景にバーチャルな視覚情報を重ねて表示する。例えばホテルのフロアに自動販売機を新たに設置する場合、CGで作った自販機を様々な場所に配置し検討できる。大流行したポケモンGOもARの技術を使っている。スマホにはARの技術を使ったアプリが多数ある。ARは現実の映像が基本であり、そこにコンピューター技術を用いて作成された画像や文字などの情報を加えていく。
だがVRは現実とは異なった、実際には存在しない空間へと人を誘い込む。この番組では死後の世界の描写がある。技術がより精密になると、本当にそのような世界があるという感覚は強まると考えられる。昔の記憶をたどるとき、写真や映像は大きな助けになる。そのときは気付かなかったことに気付くこともある。だがVR技術を用いたこの試みは新しい過去の創出であると同時に、死後の世界の創出でもある。
誰かがプログラミングした死後の世界のイメージが、新しい記憶として組み込まれる。今の段階では一つの「作品」になっていることが、それが事実であると受け取ることへの歯止めになっている。しかしコンピューター技術が一層進歩すると、VRで体験した死後の世界が、宗教家の説く死後の世界と何が違うのかという議論を起こすのは必至であろう。