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慈悲心浅き世相 共感の輪を広げないと

2021年3月5日 10時17分

複雑な社会でも、人はどこかでつながり合って生きているが、人間関係が薄くなる中、人々は心の境界を閉ざし、ますます不機嫌になっていくようだ。ネットでは、匿名の集団が満たされぬ心のはけ口を求めてか、今も攻撃の標的探しに無益な時間を費やしているはずである。もともとこの社会に潜む病理が、長引くコロナ禍でより明瞭に可視化された感がある。

昨秋、路上生活者の女性がバス停で中年男に殴られ死亡した。女性はコロナ禍で職に就けなかったらしいと報じられた。この事件が騒がれたのは、時代を映すように薄幸な命がいとも無造作に奪われたからだろう。他者の痛みに想像力が働かない社会は、単なる人間の「群れ」になる。思いやりの心が切に求められており、慈悲の教えにスポットが当たる理由もそこにある。

中村元博士は「宗教的実践の基底には、他の人々に対する温かい共感の心情がなければならない。仏教はその心情の純粋な形を慈悲として捉えた」という趣旨の文章を著書『慈悲』に記している。慈悲に関して蓄積されてきた教義・教説や研究論文などは膨大だが、実社会と慈悲の理念との隔たりはむしろ広がっている。

ここでコロナ禍の“感染者たたき”も挙げておかねばならない。個々に違う感染のプロセスを無視して自業自得と決め付け、非難する。国民の多くはそうではないのだが、他国と比べて日本に特有の現象という。生活苦に陥った人々や性犯罪の被害者も自己責任と攻撃される近年の風潮と重なるが、ケガレを嫌う精神風土との関係も指摘される。だが、医療や介護の関係者とその家族まで差別されており、改めるべき態度である。

自業自得は仏教語だが、今は自己責任と同義のように使われ、人を切り捨て、人々を分断し、社会的な連帯感を阻害している。不運な事態が生じると自分の責任と考えがちな国民性に関係するようだが、最近はやりの「自助」に転化されやすい。何事も個人の責任に帰せられると、政治の怠慢や失政の責任をぼやけさせる。為政者には都合のいい無慈悲な言葉だ。

初期仏教の経典は「わが身にひきくらべて」殺生を戒めるが、暴力に限らず人の苦しみや不幸も自分のこととして慈しむ心を養うよう説いているとされる。その教えに従えば、未来の危うい社会への警告かもしれないという懸念も聞くコロナ禍に、自業自得を振りかざす愚はより鮮明だ。求められているのは他者への豊かな感受性であり、それに共鳴する人が一人増えれば慈悲深き世に一歩近づく。

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