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汚染水の海洋放出 安全性と風評被害に懸念

2021年4月21日 10時58分

「本当に安全というならまず東京の海に流しては」。東京電力福島第1原発のトリチウムなど放射性物質を含んだ汚染水を海洋に放出するという政府の決定にこんな批判発言が地元で出た。漁師である檀家の心配の声を以前から聞いていた福島県の住職は「その気持ちも分かる」と話す。

発言はもちろん皮肉ではあるが、背景に深い憤りがある。原発事故で故郷を追われ、ようやく帰還して風評に怯えながら試験操業を長年続けた漁民が、やっと漁業を再開しようという矢先の決定。福島県や全国の漁連会長は国が「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」とした立場を覆したとして「漁業者の思いを踏みにじる行為」と抗議した。批判は全国の市民や近隣諸国からも相次ぐ。

政府は、放出は他国の原発でも実施しているし、世界的基準よりもずっと希釈すると説明する。だが「よそでやっているから」が安全証明にならないのは自明だし、もともと太平洋に流せば薄められるのが当然で、問題は濃度ではなく元の汚染物質の総量であることは誰でも分かる。

他国原発で「ほとんど問題のない量」と関係者自らがPRしてきたはずの通常運転での放射性物質の量と、3機もがメルトダウンし溶け出した膨大な核燃料が地下水と接触し続けている恐れが指摘される第1原発とを同列に語ることが正しいのか。「トリチウムは自然界にも存在する」との言に至っては、50年も前に「南米では自然放射能が高い所もある」と原発推進の“安全神話”で繰り返された牧歌的売り文句を彷彿させる。

なぜこの時期にコロナ禍大騒ぎの陰で決定を、との疑問には、8年前に「事故はアンダーコントロール」と弁明して誘致した東京五輪が間近に迫り、その後の対応進展が国際的に注目されるからとの見方もある。仮に放出水が本当に安全として風評だけが問題なら、冒頭の発言は暴論でもない。例えば大阪府知事は政府発表を受け、大阪湾での放出について「正式要請があれば真摯に検討していきたい」と表明した。「風評被害を抑えることが重要。福島だけに押し付けるのはあってはならない。日本全国で考えるべき問題だ」と。

風評被害への賠償を義務付けられた東電は、事故後の対応の実態を見てもその能力と姿勢に大きな疑問符が付く。安全を前提に、福島産の魚を政府や東電関係者が積極的に食するのは空想的だろうか。多くの国民にも、そして宗教界にもすることがあるだろう。それが真に「原発事故に苦しむ福島県民に寄り添う」ということだ。

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