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宗教文化講座 翠雲堂

プラトンの予言 ポピュリズムの危うさ

2021年12月15日 12時04分

戦争犠牲者の弔いを深く考察した文芸評論家の故加藤典洋著『敗戦後論』に以下の文章がある。

「戦争で家族を亡くした人びとの苦しみは、残された人が生きているあいだ、生き続ける。死んだ人は、そのあいだ、苦しみとして生きているのだが、残された人が死んでしまうと、死者も消える。そういう人びとが消えると、何が起こるかを、いま私たちは現に目にしているのである」

6年前書かれた文章だが、記憶に焼き付いているのは著者が憂えていた歴史の忘却が今、一段と加速しているからか。10月の衆院選では改憲勢力が議席数で圧倒し、勢いに乗じて改憲派の一部は来年の国民投票の実施要求にまで踏み込んできた。だが、現憲法の原点は無謀な戦争を始めた80年前の「12・8」にある。大戦の死者310万人の無言の哀願を思えば、平和立国の形を変えかねない改憲論の言葉の軽さが際立ってくる。

実はその軽さが、昨今耳にするポピュリズムと評される世の風潮と通じ合うらしい。ポピュリズムとは、例えば税に敏感な人々の心理を突き、事あるごとに「税金の無駄遣い」「民意に背く」などと単純で俗受けする強い言葉を国などに浴びせて人気を得る。そんな政治の手法を指しているようだ。

憲法論議に関連させるなら、被爆や空襲などの戦争被害や平和主義を語れば、近隣諸国への加害行為も語らねば公平を失する。それよりは強大化する中国や北朝鮮の軍事的脅威、あるいは一部の「嫌韓」感情を刺激した方がメディアにも受け、改憲にも有利に働くという広報戦略もそれに近かろう。

だが、ポピュリズムと聞いてすぐ米国のトランプ前大統領の名が浮かぶように、その政治手法にはある種の危うさがある。そのことを古代ギリシャの哲学者プラトンが2400年以上も前に代表作の一つの『国家』で論じていた。

要約すると

――「自由こそ民主制国家が持つ最も善きもの」なのだが、自由を求めるあまり他のすべてのことに無関心だと「ついには動物に至るまで無政府状態に侵され」た末、人々は「たちの良くない人物」を指導者に祭り上げてしまう。やがてその人物は僭主(独裁者)となり、民衆を「指導者が必要とする状態に置く」ために絶えず何らかの戦争を引き起こす――

ここでプラトンが言う「僭主」が、近年もてはやされる「ぶれない」強い政治家像と重なって見える。そんな時代の空気が意思決定に時間のかかる民主主義と、それを支える憲法を標的にしてこないだろうか。細心の注意が必要だ。

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