コロナ下の看護職 個々への小さな寄り添い
コロナ第6波の脅威で医療逼迫が問題となる中で、関連業務に携わるベテラン女性看護師の講演があった。長年管理職も務めて現役は引退していたが、人材バンクからの派遣やボランティアでコロナ下の現場に飛び込んだ彼女の体験談には、不安に駆られる人々への献身的な姿勢がうかがえた。
仕事は主にワクチン接種やPCRなどの検査の補助業務。注射器のセットや消毒、事後観察などが大変な大規模接種場では、10時間以上の勤務で日に200人ものノルマもあったが、「一人一人にケアの必要がある。“注射屋”ではない」と気を引き締めたという。20代男性が接種直後に脱力と一時的な意識消失発作で倒れた。極度の緊張による迷走神経反射で、とっさに救急対応の措置をした看護師は、以降の接種者にゆっくり話し掛けたり冗談で笑わせたりして注射をする工夫を続けた。
会場まで車いすを長時間自分でこいできた中年女性は、接種後に帰宅するには腕の筋肉への負担が大き過ぎるが、生活保護受給者なのでタクシー代が出せない。事務方に掛け合っても無理だったため、看護師は腕のケアを含む副反応の細かい注意を書いて渡し、帰ったら連絡をくれるよう伝えた。
検体採取が主の検査会場では、足取りがおぼつかず感染が疑われる一人暮らしの女子学生に、自宅付近のドラッグストアやコンビニで買えるケア用品や手当ての仕方をメモし、帰途に手配したタクシーの運転手に細かく配慮を依頼するケースも。後日、新型コロナウイルス感染症から回復したと感謝の電話があった。
接する相手も様々だ。心配や無理解から「早くしろ」「忙しい時に来てやっているのに」と当たり散らす男性もいる。一方、13歳の少年は付き添い者として来た姉が19歳なので「成人保護者に該当せず」と事務方に対応され、「お姉ちゃんは選挙権あるのに何であかんの?」と。姉は弟や病気の母親の世話をしているヤングケアラーと分かり、OKとなったという。
病棟でなくとも相当なハイリスクと激務の現場で看護師本人のストレスも極限に達する。職場では挨拶より「消毒消毒」と声を掛け合い、出勤前と帰宅時にはシャワーの繰り返しで防護と体調管理に細心の注意を払う。だがそういう時こそ彼女は「専門職としてあぐらをかかず、資源になる」「こぼれるものを見つけ、拾い、繕う」をモットーにしている。社会的に大きな不安がまだまだ続く状況で、個別の小さな寄り添いがささやかでも個々の人々の支えになる。