震災体験の風化に抗して 苦悩を「短い手紙」に
東日本大震災の被災地・岩手県釜石市で被災者支援を続ける日蓮宗仙寿院が、遺族や市民に震災への心境をつづってもらう「短い手紙」プロジェクトを始め、第1集が3月11日に発行される。いのちの重みを受け止め、時の流れに抗して語り継ぐことは宗教者にとっても重要な使命だ。
芝崎惠應住職が遺族らと話していて、いまだに悲嘆や苦しみを胸の内に秘め、つらい思いで生きているのが分かり、それに反して風化が進むことで人々が取り残された気持ちを抱えていることを痛感したのがきっかけ。それを言葉に表現することで少しでも心を安らがせ、前向きになってもらおうと昨春から寺報などで手紙を募集した。
「誰が誰に書いても、未来への伝言でも」との呼び掛けに、多くの応募が続いており、まずは当初の54通から10通を選び、12㌻の小冊子にして500部作成。市内の震災伝承施設や寺で配布する。「書いただけで胸のつかえが和らいだ」との感想の半面、苦悩の内容に掲載を望まない人もかなり多いが、発表された手紙にはそれぞれに異なるリアルで複雑な事情、心境が吐露されている。
「家族皆が俺を置いて行った。皆と一緒に死にたかったよ。津波は憎い、憎い、憎い。けど俺まで死んだら、誰が家族みんなを思い出してくれる…」(76歳男性)。66歳女性は、友人が家族と4人で亡くなり、残された友人の夫を気遣う気持ちを書いた。肉親と避難中に手を離してしまい、「『助けて、助けて』と流されていく姿が今も目に焼きついて、罪悪感に苦しめられています」と告白する78歳女性も。
一方で、災厄を悲しみながらも「未来の人たちには二度と辛い思いをさせたくない。人の話に耳を傾け聞いてあげることのできる自分になりたい。それが人の命を守る大事なこと」「震災から10年、多くの苦しみを味わったが、人の温かさや思いやりを実感させていただき、その全てが宝物」と、これからに希望を託す便りもある。
芝崎住職は、追悼法要の逮夜で僧侶の読経の途中に手紙を読み上げた。犠牲者に伝えるためだという。そして「皆さん、真っすぐな気持ちで手紙を書かれており、表面は普通に見えても心の中は違うのだと感じます。各地で相次ぐどの災害でも、心に傷を受けて立ち直るには時間がかかる。10年も、11年も決して区切りではありません」と強調する。
第2集も予定しており、それで応募や配布がさらに広がることを願っている。