原発事故で関連死増え 求められる心のケア
東日本大震災による「関連死」が福島県では昨年16人も増えた。累計で2331人と津波による「直接死」1614人をはるかに上回る。この大多数は明らかに東京電力福島第1原発の事故が原因であり、長期にわたって住み慣れた土地を追われていることによる精神的身体的ストレスが体調悪化につながった。同県南相馬市の寺院住職によると、多くの被災者、事故の被害者が悲しみとともに言い知れぬ苦難を抱え続け、特に高齢者の精神的疲労が深刻だという。
関係各自治体まとめでは11年もたってもなお7万人余りが避難生活を強いられ続けており、うち3万3千人は遠く県外への避難だ。各地の避難者が起こした損害賠償請求訴訟のうち3件では先般、最高裁が被告東電の上告を棄却して賠償責任が確定した。帰還困難区域はもとより、避難指示が解除された地域でも、生活基盤の破壊や暮らしが立ちいかない心配から住民の多くが戻れず、各市町村の帰還率は低迷している。
この3月、同県浪江町津島の広大な帰還困難区域は田畑も山林も荒れ果てたままで、朽ち果てた住居が解体された空地が増えていた。駅の周辺の市街地であった同県双葉町中心部もゴーストタウンのようで、山門や建物が倒壊したまま打ち捨てられた寺院の境内には雑草が生い茂っていた。
関連死の中にはうつ状態による自死もかなり含まれる。自らも長年避難を余儀なくされた浪江町の住職は、事故を苦にした檀家の自死に何度も向き合ってきた。少し前まで表面上は元気そうだった人が急に命を絶つようなケースに深い絶望感が伝わってくるという。
福島県が避難指示区域の住民らを対象に続けている心の健康調査では、回答した約3万4600人のうち、不安障害やうつ病のリスク割合は全国平均を上回る5%もあった。「心のケア」相談機関への相談は毎年4千~6千件台で推移している。放射能による健康被害への不安や地域共同体の消滅による孤独感、避難先での偏見や差別などが背景にあるとみられ、自死の潜在的リスクが引き続き心配だ。事故後に甲状腺がんかその疑いと診断された人が約260人という事実もある。
地元の住職たちは「11年たって住民は原発事故のことをあまり話さなくなったが、それは疲れ果て、言っても仕方ないし元には戻らないという悲しい諦めからだ」と口をそろえる。宗教者にとっても事故の責任、原発の罪を指弾し続けるとともに、現に不安と苦悩にさいなまれ続ける被害者への寄り添いをすることが大きな課題だ。