ブッダの誕生 帰依し伝えた仏弟子たち
ゴータマ・ブッダ(釈尊)の生誕、出家、そして成道、すなわち「ブッダの誕生」によって人類は仏教という豊かな智慧に触れ、人が人として正しく生きる道、生命の尊さに目覚めて心の安らぎを得ることができるようになった。教えの全容は複雑多様で、一冊の聖典に集約されるものではない。
多くの仏伝は、35歳の成道から80歳の入滅まで、ブッダの生涯の45年間は遊行の旅であったことを伝えている。その言葉は弟子たちによって聞き取られ、また帰依した人々との対話や行動の記録が人から人へ伝えられてインド全域からスリランカ、西域を経て中国、さらには朝鮮半島から日本に達した。仏滅後の編集作業と様々な革新を繰り返して膨大な経典群が成立し、伝承された地域それぞれの歴史や風土、文化や民族感情などの影響を受けながら大河のように豊かな教えの体系として世界に流布し展開している。
これまでの研究で、仏教の歴史は、ブッダ入滅後の間もない時期に教えと弟子たちの言行を確認・編集する「結集」が行われ(第一結集)、さらに教えの解釈を巡って教団内に異論を生じて「第二結集」の動きとなり、保守派の上座部と革新的な大衆部への分裂に発展したと概観されている。我が国の仏教は、在家信者たちを交えた新しい大乗仏教運動の開花と成熟の結果と言ってよい。
どんな教えも、その教えに感化され、帰依する人がいて伝播し後世に伝えられる。仏伝は、ブッダが真実の道に目覚め真理を説き始めた初転法輪の時に教えを理解したアンニャータ・コンダンニャを「仏弟子の誕生」としている。一緒に5人が仏弟子となり、次いで火の行者カッサパ3兄弟と弟子千人が帰依した。その後、サーリプッタ(舎利弗=智慧第一)とモッガラーナ(目連=神通第一)および、その一行250人が帰依し、さらにマハー・カッサパ(摩訶迦葉=頭陀第一)、アーナンダ(阿難・阿難陀=多聞第一)らが相次ぎ弟子となった。
帰依した修行僧たちが、解脱の境地に目覚め得た喜びを詩句として集成した「テーラガーター」(『仏弟子の告白』中村元訳)には、尊い教えによって煩悩の束縛から離れ、心の安定を得て新しい人生に踏み出した感興がつづられており、読む者に感銘を与えずにはいない。
釈尊降誕を祝う意味は、仏教の原点を尋ね、ブッダの教えを思い起こすというだけではないだろう。この私が一度きりの人生を生き生きとして生きること、その意味を確かめる機縁としたい。