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宗教文化講座 翠雲堂

いのちを社会で育てる 内密出産と不妊治療

2022年5月20日 11時38分

熊本市にあるカトリック系の慈恵病院で10代の女性が病院だけに身元を明かす「内密出産」で昨年末に子供を産んだ。国内初の事例であり、出生届を親の氏名が空欄のままで受理できるのかなど病院側と市、国との間で論議が重ねられた結果、新生児の戸籍が出自を伏せたまま作成されることとなった。子が将来生活を営んでいく上での基本的人権を保障するためには当然の措置であろう。その子は乳児院で育てられているという。

内密出産は安全な出生を最優先にし、子供には将来希望すれば事情を開示して「出自を知る権利」を担保する仕組みだ。同院の「こうのとりのゆりかご」の手本となったドイツでは多数の例があるが、日本ではこのようなケースの法整備があまりに遅れている。

一方で、少子化対策のため不妊治療への公的補助が政府の目玉施策として導入された。4月からの保険適用で例えば体外受精なら1回50万円程度の費用が3割負担で15万円程度になり、利用希望者には朗報だ。だがこれは政策的には社会の生産力向上を目指す、いわば「産めよ増やせよ」の発想が根底にあり、半面でハードルが下がることで「便利になったんだから治療で産んで当然」という圧力を女性に与える恐れがある。

世間には「女性は結婚して出産をするもの」というステレオタイプの見方がまだまだ根強いからだが、人生の選択は様々であっていいはずだ。子供を持つ持たないは個々人が自由に決めることであり、補助制度が抑圧を招かないように社会全体の考え方を変えねばならない。

他方、望まぬ妊娠や生活苦など様々な事情で人工妊娠中絶に追い込まれる女性もいる。生まれてくる新たないのちにとって重大な問題であり、慈恵病院が運営している「こうのとりのゆりかご」は、新生児の特別養子縁組や今回のような内密出産によってそれを救うためのセーフティーネットだ。2020年度までに計159人の赤ん坊が救われた。だが、入院出産過程や病院の手を離れた後の養育には支えが少ない。同じいのちを育むことへの対応でもこちらの方面には政府の支援はない。

「ゆりかご」と同じように乳児を受け入れる海外の「ベビーボックス」制度では、例えばレイプ被害者の女性についても産んだ赤ん坊を預かって社会的システムで養育する仕組みがある。全てのいのちが等しく重いという根本的な理念からすれば、生まれたいのち・子供は社会全体で受け入れ育てるという考え方をもっと広める必要があるだろう。

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