米「宗教の自由報告書」 中露など特定懸念国に警鐘
アメリカ国務省はこのほど2021年度版国際宗教の自由報告書を発表した。ブリンケン国務長官は2日のプレスリリースで「宗教の自由は、私たちの憲法の権利章典に記されている最初の自由」と強調。「宗教の自由の尊重は、最も深く保持されている価値観の一つ」で、米国の外交政策の「重要な優先事項」でもあると語った。
このあたりは日本人の一般的感覚とは少し違う。「信教の自由」には、宗教的行為の自由や宗教上の結社の自由も当然含まれるが、内心の信仰の自由にウエートを置く傾きがある。アメリカの「宗教の自由」はもう少し広いのではないか、と思われる。
そこでアメリカから見た日本の「宗教の自由」だが、報告書がまず注目しているのはミャンマーから逃れたロヒンギャムスリム、中国のウイグル人ムスリムや「法輪功学習者」の人権保護だ。中国での宗教的抑圧を踏まえ、政府が昨年4月に女性法輪功学習者を初めて難民認定したことも日本法輪大法学会の情報として紹介する。
国内メディアも大きく報じた問題では那覇孔子廟土地使用料免除に関する最高裁違憲判決や大分県のムスリム土葬墓地を巡る反対の動きに言及。最近不正受給が問題になった新型コロナ持続化給付金に関し、宗教法人が対象外となったのは差別だ、とした日本宗教連盟の主張にも触れている。
日本は難民受け入れ以外、宗教の自由の深刻な問題は指摘されていない。しかし、世界を見回すとそうではない。ブリンケン氏はプレスリリースで中国における民族的・宗教的少数派に対する「ジェノサイドおよび人道に関する罪」を糾弾しているが、昨年11月には、中国を含め10カ国が国務長官から宗教の自由の「特定懸念国」に指定されている。
ウクライナに侵攻したロシアもこの特定懸念国の一つ。侵略を受けた側のウクライナ正教会(OCU)は「ロシア政府はロシア正教会(ROC)を利用し、『ハイブリッド攻撃』の手段としてウクライナに影響を与えている」と非難する。高位聖職者がロシア外務省の副大臣クラスと定期的に実務協議をしていることはROCが自ら公式サイトで公表している。宗教と国家は利用し利用される関係だ。モスクワ総主教系ウクライナ正教会に対する「弾圧」など、ロシア側にも言い分はあるようだが、こうなると宗教の存在意義は何か、と改めて問い直したくなる。
宗教の自由、政教関係の危ういバランスを崩すと、このような問題は私たちの周辺でも起こり得るということは肝に銘じたい。