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死の悲嘆と不安に 説教ではなく寄り添いを(8月9日付)

2024年8月21日 09時51分

「自分は世界一不幸な人間だと思い込み、生きている実感さえしなくなった」。数年前にがんで妻を亡くした時の心境を、中年男性が患者遺族の悲嘆の分かち合いの会でそう訴えた。会には宗教関係者も参加していた。別のグリーフケアの集まりでは、1985年8月に乗客乗員520人が死亡した日航ジャンボ機墜落事故で父親を失った女性が、今もなお悲しみを抱え、いずれ訪れる自らの死と重ね合わせて不安を口にした。

死別の悲嘆、それと表裏一体であることも多い死後の不安を和らげるのは宗教者の大きな役目の一つだ。だが決して教義を解説する一般論ではなく、個別の事情に即した対応でなければならないことも自明だ。

東北地方のある浄土宗寺院の住職は、不慮の出来事で息子を亡くした母親に、「倶会一処」の教えを「あの世でまた会える」と説きながら、息子の思い出話を交え、「そのためにも自分をしっかり保つ生き方をしなければ」と具体的な生活の支えになる話をする。その信仰的裏付けとして毎月命日に寄り合っては個別の相談を受け、祈るための碑も建立した。

要は言葉による説教だけではなく、どれだけその人の悲嘆に寄り添えるかだが、複雑なケースもある。全く別の場での例だが、ある僧侶が同じように「極楽浄土での再会」を説き、そのためにも念仏の信仰が大事だと強調すると一人の遺族が「修行しなければ会えないのか」と問うた。さらに「死んだ家族に会えるなら極楽でなくても地獄でもいい! 会えるなら」と言われ、はっとしたという。

重要なのは、筋道を専門用語や一般的な言葉で説明することではなく、「救い」そのものである。そういえば、野宿者ら生活困窮者のための共同墓と碑を建立した大阪の寺院での建碑式典で、当事者の男性が「宗教は興味ないし墓には抵抗があったが、このようにお寺にできた碑を見ると、人々のつながりの力をとても感じた」と語っていた。格差社会で孤立した寄る辺ない人たちが、墓碑があることによって「いずれ仲間たちと再会できる」という気持ちに救われるならば、あえて説明や解説は不要だろう。

冒頭の中年男性は「当初は絶望で生きる気力さえなかったが、先に行った妻にまた会うために、その導きで生きていこうと思う」と語った。彼は特に信仰はなく、「あの世も浄土も信じない」が、「妻の行った道を後から行くという気持ち。いずれどこかで妻に会えると信じる」という。それこそが核心だろう。もうすぐ盆だ。

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