イスラームのアダム 人間をめぐるイスラーム神秘主義の源流…澤井真著

神によって創造された最初の人間とされるアダム。ユダヤ教やキリスト教の伝統の中だけではなく、イスラームの聖典・クルアーンにも言及がある。本書は、アダムを巡る物語がイスラーム神秘主義の思想的源泉として果たした役割を考究した上で、人間の営みとしての信仰に焦点を当てるという極めて人間学的アプローチから宗教学とイスラーム研究を架橋しようとする試みでもある。
イスラームの伝統においてアダムは様々に解釈されてきた。最初の人間であるとともに、最初の預言者、神の代理者(カリフ)、そして「完全人間」――。神秘家は、神的合一を通した体験的洞察によって神の唯一性(タウヒード)を示そうとする。神とのつながりを意識する際、「神という把握不可能な超越的実在を知ろうとする彼らの前に投げかけられた手がかりこそが、人間の源流にあるアダムなのである」。それはアダムの物語の追体験としても解釈され得る。
それ故に「人間とは何か」という問いと向かい合い、人間理解の新たな地平を開こうとする営為こそがイスラーム神秘主義であり、そしてその解釈の歴史がイスラームの人間観を醸成してきたと著者は主張する。博士論文を基にした専門的な内容だが、イスラームへの新たな知見をもたらしてくれる。
本体価格4500円、慶應義塾大学出版会(電話03・3451・3584)刊。