増補 仏典をよむ 死からはじまる仏教史…末木文美士著

新潮社から単行本で2009年に出版、後に文庫本になっていたが、このたび角川ソフィア文庫の一冊として増補刊行された。思想史の観点から、仏典を「今日に生きる思想書」として読み解くのが著者の立場。教団の解釈の枠から離れ、思想の展開のダイナミズムを追う。
仏教はブッダの死後、その死を乗り越えようとするところから出発したというのが著者の視点。第一部「死からはじまる仏教」は、仏教は死者という異形の他者と正面から向き合わなければならなかった、という視点からインド、中国の仏典を取り上げる。
仏教の日本土着を扱う第二部「日本化する仏教」は『日本霊異記』のほか、最澄『山家学生式』、空海『即身成仏義』、親鸞『教行信証』、道元『正法眼蔵』、日蓮『立正安国論』など主要宗派の聖典を扱うが、従来の宗学解釈や鎌倉新仏教中心史観から距離を置き、各時代の宗教的課題などを参照しつつ、日本思想史の中で解釈する。
現代においても有効な「思想」として仏典を掘り下げて読むという著者の姿勢は一部、二部を通じて一貫している。
角川ソフィア文庫に収めるに当たって加筆修正したほか、「仏典をよむ視座」の章が増補されている。
本体価格1120円、KADOKAWA(電話0570・002・301)刊。