隠元と黄檗宗の歴史…竹貫元勝著

黄檗宗の宗祖隠元隆琦は渡来僧として日本仏教と文化に大きな影響を与えた最後の人である。特に禅宗においては東福寺開山円爾弁円や円覚寺開山無学祖元の師である無準師範の法統を嗣ぐ臨済的伝32世の来朝は注目され、日本僧も多く師事した。徳川将軍家の外護の下、1654年の隠元来日からわずか90年後の1745年には末寺数1千余を数え、臨済宗では妙心寺派に次ぐ教勢を誇った。明代の文化習慣も持ち込まれ、絵画や煎茶など様々な分野で社会に刺激を与えた。
著者は日本臨済禅宗史研究の第一人者で、黄檗宗に関しても『近世黄檗宗末寺帳集成』を上梓している。本書は隠元の渡来とその活動、仏教界への影響を扱った第1編「日本時代の隠元」、宇治・黄檗山の成立とその後の展開、黄檗派の教勢、長崎の三福寺との関わりや黄檗僧文化活動、明治以降の状況などを扱う第2編「黄檗派の展開」で構成される。
新寺建立禁止、無本寺無檀家寺院の廃寺化という幕府の宗教統制政策の中で黄檗派が爆発的に末寺を増加させた経過を一次資料を駆使して分析するとともに、既成教団寺院の末寺化の実例を紹介するなど、著者ならではの知見は注目される。近現代の黄檗宗については先行文献も乏しいだけに、一層の研究の深化が待たれる。
本体価格3500円、法藏館(電話075・343・5656)刊。