構築された仏教思想 一遍 念仏聖の姿、信仰のかたち…長澤昌幸著

時宗の宗祖一遍上人は全国を遊行し、生涯を通じて250万人超の民衆に念仏札を配った。「念仏勧進は自分一代限り」と日頃から語り、晩年は手元にあった経典以外の書籍を焼却し、その著作は残っていない。
本書は国宝の「一遍聖絵」をはじめとする伝記類や法語などの史料に基づいて一遍上人の生涯をたどり、思想に迫る。その特徴を論じるに当たり、著者は背景に善導教学、西山義が影響していることを確認する。
その上で「一代聖教みなつきて、南無阿弥陀仏になりはてぬ」と述べ、釈尊一代の教えを突き詰めれば凡夫である自身を救済するのは南無阿弥陀仏の六字名号であると、その絶対性を確信するに至った思想を法語などからたどる。
同時代の人々からも「捨て聖」と称された一遍の「捨てる」思想についても考察。衣食住、家族などの「万事を捨離して往生す」と執着から離れて生きることを説いた意義は念仏のうちにあって無になることと解説する。
さらに一遍の入滅後、時宗教団を確立した二祖他阿真教、教学を大成した七祖他阿託何までの歴代の上人に触れ、時宗が宗派として現代まで続くに至る基盤形成の過程を紹介する。著者は時宗宗学林前学頭、大正大専任講師。
本体価格1600円、佼成出版社(電話03・5385・2323)刊。