「ぞめき」の時空間と如来教 近世後期の救済論的転回…石原和著

「民衆宗教」の先駆けとされた「如来教」を「ぞめきの時空間」の中に位置付けて考究し、従来の民衆宗教像の「更新」を図る。ぞめきの時空間とは、1800年前後の名古屋の宗教環境を表現したもので、救済を希求する人々の宗教的高揚などを指す。
如来教は1802(享和2)年、名古屋城下に住む元武家奉公人喜之(1756~1826)の神がかりを端緒とし、現世利益や後世の「安心」が説かれた。
従来研究における如来教像は、天理教や大本を対象とした教祖・教団研究によって構築された近代的宗教としての民衆宗教像に当てはめて形成されたという。そのため「民衆宗教」性が強調され、近世という時代の宗教環境から乖離して形成された側面が強かったと指摘する。
本書では、如来教を社会から突出した「孤高」の存在として描くのではなく、当時を生きた人々の信仰に根付いた宗教として捉え直す。名古屋で起こった近世真宗最大の異安心騒動における救済論を検討し、それと比較して、如来教の救済論の特徴を分析するなど興味深い内容となっている。近代民衆宗教の前史として捉えがちな近世民衆宗教を、当時の宗教環境の総体の中に位置付けて再分析し、歴史的・社会的意義を解明する。
本体価格4500円、法藏館(電話075・343・0458)刊。