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翠雲堂

思いがけず利他…中島岳志著

2021年12月23日 10時31分
思いがけず利他

「利他的であろうとすると利他が逃げていくのだったら、わたしはどうすればいいのか」。本書は「利他」を巡る矛盾を「わたし」自身への問いとして引き受け、読者に問う。新型コロナウイルスの感染拡大で、他者を想像して行動することが強く求められた。「利他」への思索を通じ「わたし」とは何者か、根源的に見つめることを提示する。

著者は親鸞の言葉『歎異抄』の「さるべき業縁のもよおせば、いかなるふるまいもすべし」を引用した。自己と他者は置き換え可能な存在であり「自分もそのようになり得た」という共感と寛容の重要性を説く。

第2章「やって来る―与格の構造」では、能動と受動以外の視点で、主体の在り方を検討した。学生時代にヒンディー語を学んだ著者は、同語の「与格構文」が「主格では捉えきれない利他の構造について重要な示唆を与えてくれる」と指摘。「私は嬉しい」を「与格」的な表現で表すと「私に嬉しさが留まっている」となる。行為や感情が、不可抗力で思いがけず「やって来る」様を表す。

私が私であることの蓋然性に絶えず驚く心を保ち、自力の限りを尽くすこと。自己を超えた力に謙虚になる必要性を説いた。「利他」は受け取られた時に初めて起動する。その時間差と驚きがタイトルに込められた。

定価1760円、ミシマ社(電話03・3724・5616)刊。

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