法然を生きる…ひろさちや著

仏教の解説書を長年手掛けてきた著者が、最新の仏教研究を踏まえて書き下ろした「祖師を生きる」シリーズ(全8巻)の4冊目。国家の安泰や為政者の幸福を願う「国家仏教」ではなく「庶民のための仏教」という観点から、法然の生涯と教えを分かりやすく解説する。
地方官の家に生まれた法然は、幼時に父が殺害されたことから寺院に預けられ、その後15歳で受戒。比叡山や南都での修学を経て、専修念仏と呼ばれる独自の念仏理論を打ち出した。念仏への専念によって往生を頼むという教えを裏打ちするのは、弱く貧しい人々を差別せず、ありのままを肯定した上で、全ての人を救済する阿弥陀仏の慈悲を信じる法然の一貫した態度だ。
著者は最終章で、法然の教えが現代社会を生きるための手掛かりとなることを提示する。物質的には充足し、当時考えられていた「穢土」とは一見、無縁に思われる現代社会でも、世俗的成功を求めて競争や努力を強いる「世間の物差し」に疲弊する人は多い。「南無阿弥陀仏」の名号は、苦しみの中で世間を生きる人々の支えとなると同時に、相手をそのままで肯定する「仏の物差し」によって生きるという帰依の言葉であることを法然の教えから学ぶことができるとしている。
定価1650円、佼成出版社(電話03・5385・2323)刊。