見捨てられる〈いのち〉を考える…安藤泰至・島薗進編著

島薗進・上智大グリーフケア研究所長らがつくる「ゲノム問題検討会議」で一昨年8月から12月まで3回にわたり行われたオンラインセミナーを書籍化した。医師2人が同年7月に逮捕されて発覚した京都のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者に対する嘱託殺人を受け、安楽死・尊厳死に関する言説を問い直した。「自己決定」の議論が広がるが、生きる方向では認められず「死ぬ権利」ばかりが安易に認められていく現状に警鐘を鳴らす。
本人が「死にたい」と言ったとしても人の気持ちは常に揺れるし、「人として生きる意味や価値をもって生きたい」のに生きられないから「死にたい」という気持ちになることもある。「他人に迷惑をかけてまで生きたくない」と安楽死を肯定する人がいるが、安藤泰至・鳥取大医学部准教授は「普段、他人に迷惑をかけていないのか?」と疑問視し、実際に自らが病気や重い病気を有するようになったときに、「殺される側」「殺されることに脅威を感じる側」に回るかもしれないという現実を想像すらしていないと断じる。
大谷いづみ・立命館大産業社会学部教授は、若年層の生きづらさを背景に「死ぬ権利」の議論が共振しているとして「美しく死ぬ作法」より「みっともなくても生きのびること」が重要だと訴える。
定価1980円、晶文社(電話03・3518・4940)刊。