差別の構造と国民国家 宗教と公共性…磯前順一・吉村智博・浅居明彦監修

本書は宗教や部落差別などを研究する磯前順一、吉村智博、浅居明彦の3氏を研究代表者に2015年に始まった共同研究プロジェクトの成果をまとめる「シリーズ宗教と差別」の第1巻として刊行された。宗教学や社会学、政治学、民俗学など多角的な視点から「なぜ、私たちは差別するのか」を検討する。
第1部では「近代主権国家における排除と差別の論理」など、主に近代国家論や政治学の観点から差別の構造的な要因を考察。第2部はカースト制度やユダヤ人問題など「差別と共生」を巡る世界の事例を取り上げ、第3部ではアイヌ差別や「狐持ち」の家系に対する結婚忌避、福島の原発事故の避難者差別など近代日本の差別問題を論じている。
これらを踏まえて終章では茢田真司氏が近代の差別の構造について、近代国家が想定する「人民」という主権の構成主体は「人民でないもの」をつくり出すがゆえに「排除の論理が不可分の形で組み込まれている」ことと、「統治」の過程でその客体である「人民」のカテゴリー化が不断に繰り返され人々を分断させることの二つの類型を指摘する。
シリーズは全4巻を刊行。研究代表者の3氏は「自分こそが差別の当事者だという立場を取る」との基本姿勢を強調している。
定価3080円、法藏館(電話075・343・5656)刊。