クィア神学の挑戦…工藤万里江著

性的少数者一般を指す「クィア」とキリスト教との問題を扱うクィア神学専門家による重厚な論考。数々の先行研究を援用し性にまつわる神学の変化や課題を検討しつつ、あらゆる人々の解放や救いの可能性を見いだす。
クィアは元々、同性愛者ら従来の性規範から外れた人への侮蔑語として使われてきた。しかし近年は主流社会からの逸脱を強調し、社会規範の差別性を告発する用語として使われる。特にクィア神学は、強固な家父長制、異性愛中心主義を背骨にしたキリスト教の規範をマイノリティーの立場から批判する学問として研究が進められている。
クィアの意味がつかみにくいのは、あらゆる性規範を超越するからだろう。ゲイ神学やレズビアン神学さえ「非異性愛」のカテゴリーに縛られているとクィア神学は指摘する。
特に、登場する神学者の一人、アルトハウス=リードは、男性・女性・LGBTといったカテゴリーを超え、現実の人々の身体が経験するあらゆる苦しみ、喜びを覆い隠すことのない神学としてクィアを昇華させている。
著者はリードの「『共に生きる』ために主体を固定せず、キリスト教の構築性・規範性に挑む」姿勢を高く評価する。あらゆる性を包括するクィアが、既存の神学解釈の地平を押し広げる可能性に気付かされる。
定価4730円、新教出版社(電話03・3260・6148)刊。