死者と霊性の哲学 ポスト近代を生き抜く仏教と神智学の智慧…末木文美士著

近代仏教史を論じるときに「神智学」の影響が重視されるようになったのは最近の傾向だろう。単なるサブカルチャー寄りの位置付けではなく、ポスト近代とその限界を大きく視野に収め、宗教・思想の可能性を考える手掛かりをそこに求める方向性が注目される。
本書に先立ち、著者は中島隆博、若松英輔、安藤礼二、中島岳志各氏と共著で『死者と霊性』を上梓しているが、神智学の再評価も含め、問題意識は当然連続している。
近代啓蒙主義の根底にある普遍的理念が力を失う中、社会を支えるものは何か。死者との関係や未来への責任など、倫理の根拠も根底から問い直される必要がある。合理化、世俗化の枠組みで解釈されてきた近代を、それとは異なる視点で再検討すること。神智学が提示した普遍的な霊性へのアプローチの再考に意味があるゆえんだろう。
「ポスト近代の動向は、普遍主義の不可能性を前提として、そこに覇権主義が展開するようになっている。しかし、普遍主義は西洋の啓蒙的普遍主義だけではない。……東西の融合の中から生まれた霊性的な普遍主義もあり得るのではないか」(第9章)と著者は言う。モラルなき「力の闘争」という絶望のポスト近代に、希望の原理を見いだそうとする著者の思いが本書に込められている。
定価979円、朝日新聞出版(電話03・5540・7793)刊。