琉球沖縄仏教史…知名定寛著

ユタや民間信仰について語られることが多い沖縄は仏教王国だった。神戸女子大名誉教授の著者が14年前に上梓した『琉球仏教史の研究』に新知見を加え、本書が刊行された。
琉球史は1609(尚寧王21)年の薩摩侵攻以前と以後に分けて語られる。古琉球時代には、尚巴志が10カ寺以上の寺院を建立し、続く尚泰久は首里城の真向かいに七堂伽藍を備えた禅刹の天界寺を建立した。京都五山の禅僧・芥隠承琥が外交官としての役割を得て、室町幕府と交易を行った。
薩摩侵攻で歴代国王が帰依した寺院の多くが廃絶した。後の三司官・蔡温は儒教を重んじ、禅僧の政治的影響力を遮断したという。近世王府は経済的保護を与えたが修行地を制限し、僧侶らの教化を間接的に禁じた。王国崩壊で僧侶らは衆生教化による寺院経営を迫られ、再び窮地に追いやられた。
首里地域の禅宗の役割や袋中上人の念仏布教、真宗の開教など基本的通史も記される。
沖縄県は現在も寺院が少なく、檀家制度のない特異的な地域だ。沖縄戦の壊滅的な被害もあり、仏教衰退の先駆といえる。本書は琉球仏教史を概括したものだが、為政者との間で教団はどのように衰退し、仏法はいかにして衆生から忘れ去られるのかの前例を示した点で、学ぶべきことが多い。
定価4950円、榕樹書林(電話098・893・4076)刊。