日本仏教史入門 釈迦の教えから新宗教まで…松尾剛次著

日本仏教1500年の歴史をたどり、その独自の発展は、僧侶たちがそれぞれの時代において人々の苦悩に応えてきたが故のものだと解き明かす。
鎮護国家のための宗教だった仏教は、鎌倉時代に大きく転換する。著者は「中世仏教の新しさとは何か」の章で法然、日蓮、叡尊らを取り上げ、彼らは個人の救済に動いた遁世僧だったと指摘する。官僧の立場では人々の悩みに応えることはできず、民間の宗教者となって個々人の苦しみと向き合い、葬送にも関わるようになったと説明する。江戸時代には檀家制度が確立し、安定を得た僧侶が堕落したとの見方もあるが、著者は宗学が整備され外来文化だった仏教の日本化が進展したとみる。
近代から現代においては、国の政治にも大きな影響を与えた国柱会、急速に信者を増やした創価学会などに言及。曹洞宗ボランティア会を組織した故有馬実成・原江寺住職の国内外での様々な支援活動は、叡尊や忍性をモデルにしていたことにも触れる。葬式仏教と揶揄されてきた日本仏教だが、東日本大震災以後、悩める人に積極的に寄り添うようになっており、「生活仏教」として発展していくことが期待されると歴史を俯瞰した上で結んでいる。
定価946円、平凡社(電話03・3230・6573)刊。