戦国期東国の宗教と社会…吉田政博著

戦国時代の東国で伝播した宗教にフォーカスし、仏教をはじめとする宗教が地域に展開していった過程を大名や領主との交流から温泉との関係性に至るまで、様々な側面から分析する。
乱世のただ中にあった戦国時代の日本では「一向一揆」をはじめとする宗教運動の勃興や、地方領主層と僧侶の交流、遊行者の活発化、キリスト教の伝道など、極めて多様な宗教文化が生まれた。それぞれの分野で豊富な研究成果が蓄積されている中で、本書は主に浄土系宗派と修験や真言宗の研究動向を検証し、宗教が現地でどのように受容され、広がっていったのかを明らかにする。
例えば、戦国期は僧侶と権力者の関係が大きく変化した時代だった。合戦に同行し、陣営間の連絡役として機能した「陣僧」は、かつて武士の死の間際に「南無阿弥陀仏」を称えることが主な役目だった。
戦国期ではさらに歌人や医療者としての役割が求められ、戦闘の激化により危険性も増した。そこで陣僧役を忌避したい寺院と、陣僧役を免除する代わりに寺院勢力を傘下に置きたい大名の綱引きが行われる。本書では、こうした武士社会と寺院の切り離せない関係性を多数解説する。日本仏教の拡大について新たな知見が得られる一冊。
定価1万1000円、吉川弘文館(電話03・3813・9151)刊。