中世真宗の儀礼と空間…山田雅教著

浄土真宗で儀礼が軽視されるようになったのはなぜか。著者はこの問い掛けから出発し、しかし真宗には実に豊饒な「真宗儀礼」が存在していたことを明らかにする。
宗教は教義として成立し、儀礼を伴って教団が形成される。その成り立ちは真宗でも同様のはずだが近代以降、儀礼を軽んじる傾向が見られることについて本願寺派僧侶で社会学者の大村英昭氏は、宗教は個人の問題であるという認識や、身の営みである信仰表現の軽視などに原因があることを指摘した。
著者はこのような傾向が真宗において特に顕著であると認めた上で、さらに「真宗において儀礼が軽視されるようになったのは、宗祖と仰がれる親鸞その人が、儀礼に対して否定的ともとれるような行実を残しているためでもある」と論じている。
しかし現実に宗教集団を形成し、教団として存続してきた真宗には覚如以来、独自の「儀礼」が確かに存在し、信仰の継承と共に展開してきた。それを証明するために著者が駆使した方法は、儀礼執行の「空間」に着目し、その具体的なイメージの中に現実を再現することで、真宗儀礼の具体相を明らかにすることだった。
本書は著者の問題意識が面白いだけではない。その発想法も魅力的である。
定価6820円、法藏館(電話075・343・5656)刊。