たたかう神仏の図像学 勝軍地蔵と中世社会…黒田智著

「勝軍地蔵」の名が文献上初めて現れるのは、承久の乱の前後である1221(承久3)年5月28日のことであり、まったくの和製の地蔵菩薩といえる。本書は、勝軍地蔵信仰の誕生と、その背後にある中世的世界観の様相を解明することを目的とし、併せて現在に至るまでの800年の信仰の歴史の道程をたどる。
著者がこれまで調査・収集してきた勝軍地蔵像の作例は700点余に上り、その図像と言説を巡る「歴史図像学」の試みでもある。中世日本に固有の国家・国土観念を映し出す鏡として勝軍地蔵を捉えつつ、後の中近世武家政権、そして近代戦争や国民国家にまで少なからぬ影響を及ぼしていることを論考している。
勝軍地蔵の歴史を五つの段階に分け、戦勝を担保する軍神として、愛宕信仰と習合した火伏の神として、武士道の実践と徳治・善政のシンボルとして、など多様な側面を提示。その上で「(日露戦争からアジア・太平洋戦争にかけて)ふたたび近代戦争における戦勝神となって各地で戦勝祈願が行われ、少なからぬ勝軍地蔵が造立されていった。調伏と鎮魂、戦争と平和の八〇〇年におよぶ歴史のなかで、勝軍地蔵もまた新しい近代を、現代を生き続けていった」とも指摘している。
定価4180円、吉川弘文館(電話03・3813・9151)刊。