一遍を生きる…ひろさちや著

各仏教宗派の祖師の生き方を取り上げ、そこから現代に生きる人々へのヒントを探ろうとする著者渾身の書き下ろしシリーズ「祖師を生きる」(全8冊)の5作目。「捨聖」「遊行上人」などと称された時宗の開祖・一遍上人(1239~1289)を、分け隔てなく人々に救いの手を差し伸べた「反体制の仏教者」として描き出し、その実像に迫ろうとしている。
一遍は伊予国道後の水軍の家に生まれ、10歳で出家する。浄土宗を学んだ青年期を経て故郷に戻り、半僧半俗の生活を送るが再出家。各地への賦算(お札配り)の旅の道中、熊野本宮で神託を受け「信/不信」「浄/不浄」に関係なくただ念仏札を配ればよい、との境地に至り、以降、その実践の生涯を送ることになる。著者は、朝廷をはじめとした体制側におもねることなく、女性や伝染病患者など社会から見捨てられた人々をも救おうとした、その反世間性・反体制性に一遍の思想基盤を見いだしている。
家も家族も全てを捨てて念仏と遊行の境地に生きた一遍。「『未来』に希望を持たず、『過去』をくよくよ反省せず、『現在』をしっかりと生きればよい」という生き方を我々に教えてくれているのだ、と著者は強く訴えている。
定価1650円、佼成出版社(電話03・5385・2323)刊。