仏教の正統と異端 パーリ・コスモポリスの成立…馬場紀寿著

「大乗仏教」と「上座部仏教」という従来の枠組みを根本から見直し、南・東南アジアにおける「聖なる言語」の転換から仏教史を描き直す。
「大乗」と「上座部」という概念は、近代仏教学が「サンスクリット語」「パーリ語」という仏典言語の伝播範囲を誤って区分したことに由来するもので、伝統的な仏教の在り方とは一致しない。筆者は「大乗と上座部を別種の仏教として捉え、両者の相違を定義するところに誤謬の根本がある」と指摘し、大乗を退ける一派が上座部の中に生まれた経緯に着目する。
古代インドの仏教には中央集権化した教団がなく、大乗と上座部は共存していたという。一方、スリランカの大寺派は『島史』で自らを「正統」とする主張を展開し、パーリ語原理主義を生み出し、パーリ語仏典を正典と定めた。その後、13世紀に南・東南アジアにおける聖なる言語がサンスクリット語からパーリ語に移ると、各国の王権は大寺派の出家教団を支援し、大乗を退ける思想が広まっていく。
本書はヨーロッパに端を発する近代仏教学の仏教観に異を唱え、言語世界の転換から仏教史を俯瞰するという新たな視点を提示している。
定価3960円、東京大学出版会(電話03・6407・1069)刊。