渋沢栄一はなぜ「宗教」を支援したのか 「人」を見出し、共鳴を形にする…山口輝臣編著

近代日本を代表する実業家、渋沢栄一は「無宗教」を自称しながらも、多方面にわたり宗教を支援した。宗教・宗派を超えた多様な関わり方を徳川家遺臣、郷里および実業界の「名士」に伴うもの、「フィランソロピー」活動の三つの視点から読み解いた論集。
徳川家ゆかりの寛永寺と増上寺や郷里の寺社、そして明治神宮への支援に尽力した理由は、農民から幕臣に取り立てられ、財界指導者となった渋沢の生涯から捉えやすい。一方で、質量ともに他を上回るのが、救世軍・日曜学校・修養団・湯島聖堂などへの支援であり、本書はその理由をフィランソロピー活動に見いだす。
フィランソロピーは人類愛に基づく個人や団体の慈善活動、奉仕活動など自発的で利他的な活動とされる。編者は渋沢の残した言葉などから「渋沢が必要と考える『フィランソロピー』をたまたま『宗教』が担っていたことによる支援と解するのがよさそうだ」と、宗教団体が担う社会事業に感謝し、支援したと推測する。
実業家を中心に政財官学のエリートを巻き込んで実施されることが多かった渋沢の宗教支援。「無宗教者」が「宗教」を支える社会的基盤の存在など当時のエリートと「宗教」との関わりについて新たな視座を示す。
定価4180円、ミネルヴァ書房(電話075・581・5191)刊。