地獄と娑婆のお地蔵さん…ひろさちや著

村はずれのお地蔵さん、いつもにこにこ見てござる……。日本人の心象風景にある「お地蔵さん」の特質や魅力について、先日85歳で亡くなったひろさちや氏が解説する。
1979~82年に大法輪閣から刊行された「ひろさちや仏教名作選」の復刊企画。本書は第2巻で、第1巻『仏教のことば・考え方』、第3巻『仏の世界と輪廻の世界』と合わせて3冊の選集となっている。著者が仏教評論家として世に出始めた頃の書籍だが、内容・文体は今読んでも古さがなく、むしろシャープで、端々に著者ならではのサビの利いたユーモアが発揮されている。
お地蔵さんの特質について著者は、仏ではなく菩薩、すなわち末法の「無仏の時代」に「娑婆」=この世=において、仏の代わりを務めてくれる存在だと説く。娑婆とは忍土を意味し、互いに耐え忍びつつ生きなければならない。そうした人間の生きざまを、お地蔵さんはいつも笑顔で見守りながら一緒に苦しみ、一緒に悲しんでくれる。著者にとって、お地蔵さんの原点はそこにあるという。
本書では『今昔物語集』にある地蔵菩薩が地獄に落ちた亡者を救う説話も紹介し、閻魔大王と地蔵菩薩との関係に言及する。
巻末に著者編「賽の河原地蔵和讃」を付し、お地蔵さんの慈悲の深さを讃えている。
定価1980円、佼成出版社(電話03・5385・2323)刊。