憑霊信仰と日本中世社会…徳永誓子著

霊的存在と人間との交感として一般的に知られるのは、神や鬼、死者や生者、狐や蛇などの動物の霊が憑依する現象である。「憑霊」の語は、何ものかが憑く現象を総体的・体系的に研究した小松和彦が「憑霊信仰」の語を用いて学術領域に浸透したという。
本書が検討対象とするのは、憑依技法である。著者は「神・人・動物などの霊を人につける技法が、日本においてどのように展開したかを、10世紀から14世紀中葉までの貴族社会を主な対象に、歴史的に検討することを目指す」と述べている。「技法」とはどういうことかというと、憑霊には霊的存在からの働き掛けで偶発的に起こるものと、人から意図的に働き掛け生じさせる場合があり、本書は人為的な憑霊技法を取り上げる。
憑霊技法には職能者が自身に霊をつける例と別の人物につける例とが見られ、霊をつけられる人物は「よりまし」の語で表される。本書で扱う時代にこうした表記がほとんど見いだせないので、著者は片仮名で「ヨリマシ」と表記している。
ヨリマシを用いた技法を「ヨリマシ祈祷」、モノノケに苦しむ人にモノノケ調伏のために行う祈祷は「ヨリマシ加持」と称する。それらの歴史的展開を踏まえ、仏教と神祇信仰の交錯を浮き彫りにする。
定価3850円、法藏館(電話075・343・5656)刊。