現代社会はどこに向かうか -高原の見晴らしを切り開くこと…見田宗介著

4月1日に亡くなった見田宗介・東京大名誉教授の最晩年の著作。思想界に多大な影響を与えてきた社会学者が、現代は3千年来の巨大な転換点にあると指摘し、これまでの経済最優先を脱し、素朴で永続的な幸福を感受できる社会が期待できると説く。
見田氏は『宮沢賢治-存在の祭りの中へ』『社会学入門-人間と社会の未来』など多数の著作があり、幅広い視点から日本の社会構造について論考を発表した。東京大でのゼミは人気が高く、毎年多くの学生が集まった。
本書では人間の歴史を俯瞰し、古代ギリシャ哲学や仏教が生まれた時代を第一の曲がり角とする。現代に至る人間の精神の骨格が生まれるとともに、貨幣経済が発達。合理化を追求し物質的豊かさは得られたものの、資源の枯渇、自然環境の破壊が進み、第二の曲がり角に差し掛かっているという。
経済成長の追求を当然視してきた者には行き詰まりと見える状況を迎え、著者は日本とヨーロッパでの意識調査の結果を子細に検証。若い人たちは限りのない貨幣の欲望よりも、自然や文化、人との交流を楽しむ、人間にとってより根源的な幸福に対する感受性を持っているとして、新たな時代への希望を提示してくれる。明晰な理論とともに、独自の詩的文体も楽しめる。
定価880円、岩波書店(電話03・5210・4000)刊。