中世神道入門 カミとホトケの織りなす世界…伊藤聡・門屋温監修

この20~30年で進展した中世神道研究の最前線を紹介するガイドブック。事典形式で本地垂迹説、神国思想、両部神道、神道灌頂、天照大神、蔵王権現、神功皇后説話の変容、十種神宝、各人物、神道書などのトピックを解説する。具体的な事件よりも、典籍や美術の制作活動や儀礼・伝授・教化活動の中で紡がれてきた言説や観念に焦点を当てる。それは現代の社寺の境内に掲げられている由緒書の基層となった世界観の解明に挑んでいるということも可能だろう。一連の議論が提示してきた「神道」という枠組み自体への問題意識は、神道にとどまることなく、仏教研究や宗派史研究への刺激にもなる。
神仏習合の解説では東アジアに視野を広げ、共通性を述べつつ神と仏の対応関係の徹底的な考察は日本独自だと指摘。真宗の存覚や浄土宗の聖冏など、習合一辺倒ではない神仏関係論の存在にも目を配る。また禅僧の中世神道への影響の解明が今後の課題とし、土地伽藍神、渡唐天神、白山神に言及する。
「古典神の変貌」の節は現在の神社神道を知る上で参考となる。日本書紀で具体的な説話のない国常立尊が、皇祖神を超える始原的な最高神とされて地位が向上。急増した時期が「近代」であるかは検証の余地があるが、同神を祀る神社が出現した背景と分析する。
定価4180円、勉誠出版(電話03・5215・9021)刊。