ヤバい神 不都合な記事による旧約聖書入門…トーマス・レーマー著、白田浩一訳

旧約聖書で描かれる神といえば、『創世記』の中で洪水を起こしノア以外の人類を滅ぼしたり、アブラハムに息子イサクの命を捧げさせたりして読者をしばしば困惑させる。それゆえ残酷で横暴という印象を持たれることが多く、救いを強調する新約聖書との比較のもと、近代のキリスト教神学で批判され、反ユダヤ主義の標的になることもあった。
その難解な箇所をどう解釈すべきか。スイス・ローザンヌ大で教壇に立った旧約聖書学の泰斗が聖書の解釈を通し、神は本当に残忍か、はたまた暴君か、その「人柄」を探っていく。
著者は神に対してあらゆる問い掛けを続ける。神は男性的か、独善的か、暴力的か、理解可能か……。テキストを徹底的に吟味し多様な解釈可能性を論じている。
そもそも、神の謎は新約聖書にもちりばめられている。例えば、十字架にかけられたイエスが「わが神、わが神、なぜ私をお見捨てになったのですか」と問う場面は、今も盛んに解釈がなされる。同様に旧約聖書でも著者は「神学を論じる際に、聖書の神が持っている理解不能な側面を否定しようとする誘惑に負けてはならない」とする。神は人類を常に驚かせ、疑問を投げ掛ける。その本質をいま一度思い起こさせる。
定価2420円、新教出版社(電話03・3260・6148)刊。