道元の〈哲学〉 脱落即現成の世界…竹村牧男著

道元の生涯や思想に関する過去の研究を概観し、その禅哲学の核心に迫ろうとする一冊。学生時代から禅に参じる著者が、道元が捉えた「脱落即現成」の世界を明らかにする。
宋の天童山如浄の会下で道元は大悟を得た。身心脱落と表現されるその悟りこそが、道元の全ての哲学に通ずる根本体験である。道元は身心脱落のほかにも盛んに「脱落」の語を用いて世界の真実を語った。『正法眼蔵』では衆生が身心脱落するまでもなく世界の根本的なありさまは本来脱落であるような本性が直ちに現成しているのだと説いた。著者は「道元の思想の核心に『脱落即現成』という理路がある」と主張し、道元独自の哲学の本質を解き明かす。
第9章「道元の見性批判をめぐって」では道元が禅の悟りを示す「見性」という語に批判的であったことについて「道元が『見性』の語については、通俗的な見方を超える解釈を示すことなく、ただ非難に終始したことは道元らしからぬ」ことであると疑問を呈する。鈴木大拙や西田幾多郎の研究を振り返った上で、道元の見性批判の背景には、道元が留学中に見た宋の仏教界の様子や、禅宗の他派の動向に対する何らかの思いがあったのではないかと指摘する。
定価3520円、春秋社(電話03・3255・9611)刊。