本願寺と鉄道の近代史…中西直樹著

「近代日本の鉄道事業の発展と仏教、とりわけ本願寺とは密接な関係があった」――この一文から本書は始まる。明治初年に、西南戦争後の財政難に陥った政府が東西本願寺に鉄道敷設の推進を要請したというエピソードも紹介されており、事実、東西本願寺は門徒に対し起業公債公募への協力を要請し、我が国の鉄道近代化に大きく貢献した。
ここに書かれた近代日本と鉄道事業の関係史ほど興味深いものはない。なぜ本願寺がこれほどまで鉄道事業に関わることができたのかは、いくつかの理由がある。私設鉄道会社が相次ぎ設立された時、その経営陣に東西本願寺の有力門徒が多数含まれていた。鉄道の敷設工事や運行で頻発した大事故による死者の追悼供養が期待されたことや、創業間もない時期から東西本願寺の参詣者に団体割引が行われるなど、持ちつ持たれつの関係が築かれていった。
日清戦争を経て、京都は観光地として発展する。内国勧業博覧会の開催や平安遷都千百年記念祭でにぎわいを取り戻した京都の牽引力となったのは、やはり東西本願寺をはじめとする仏教界だった。組織的な鉄道布教の中核となった「鉄道道友会」の存在など、これまでまとまった研究のなかった本願寺と鉄道の関係史が明かされている。
定価5280円、三人社(電話075・762・0368)刊。