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吉備真備の書

〈コラム〉風鐸2020年3月16日 14時35分

古代史の著名人・吉備真備の筆跡を伝える金石文が先頃中国で見つかった。縦横約35センチ、厚さ9センチの石に刻まれた鴻臚寺丞・李訓の墓誌で、秘書丞の褚思光が文を撰し、「日本国朝臣備書」と署名されている◆秘書丞は阿倍仲麻呂が任じられたこともある秘書監(律令制の図書頭)の下僚で、恐らく文人。「朝臣備」は時代的に、留学生活を終えて帰国直前だった吉備(当時は下道)真備とみて矛盾がない。鴻臚寺は朝貢使節の管理などを担当する役所だから、真備との交流もうなずける◆真備の人生は波乱が多く、後半生も左遷された揚げ句50半ばを過ぎて遣唐副使で再度渡唐した。当時珍しい長寿(80歳没)を保ち、正二位右大臣にまで昇った◆木簡などとは違い金石文の発掘数は少ないが、『古事記』編者の太安麻呂の墓誌など有名人の名も突然現れたりする。不思議なことに銘文残存数が20に満たない日本古代の墓誌に、吉備真備ゆかりのものが2件ある。一つは真備が母のために作った墓誌。もう一つは祖母の骨を納めた銅壺の銘だ◆同時代史料として重視される金石文は偽造説が付いて回る。国宝「漢委奴国王」金印ですら江戸時代の偽造説は無視できない。出土状況に疑問点があるのが理由の一つ。それをいえば、今回の墓誌も発掘と伝来の経緯は未詳だ。とはいえ遣唐使に関する新たなエピソードが加わるのはうれしい。(津村恵史)

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