銭湯と古書店
「近所のクリーニング屋さん、閉店ですって。困ったわ」。買い物から帰った家人が嘆いた。聞けば、新型コロナウイルス感染の再拡大で注文が減り、回復の見通しも立たないことから1月末で店じまいするという◆テレワークが広がり、スーツやワイシャツの仕事が減る一方、ステイホームで家庭での洗濯が増えたためらしい。飲食店や観光業などコロナ禍の直撃を受けた業界の苦衷はよく耳にするが、足元の商店街にも影響が出ていることを実感する◆そう思って見渡すと、散歩圏内にあった銭湯と古書店が最近相次いで廃業したことを知った。銭湯の入り口に「長年のご愛顧に感謝し……」と張り紙があるだけで、廃業の理由は書いていない。銭湯文化が根付く京都市内でも内風呂の普及で外湯の習慣が薄れたようだ◆散歩途中に店頭のぞっき本をのぞいた古書店は知らぬ間に青いシートに覆われ、「売家」の看板が揺れていた。大谷大に近く、仏教書や哲学書、文学全集などの希少本が狭い通路を埋め、天井までうずたかく積まれていた◆奥の帳場に座る店主とは口をきいたことはなかったが、週末の銭湯で時々顔を合わせた。店を閉めた後の日課らしく、サウナと水風呂に繰り返し入る店主と目礼を交わした。業界の栄枯盛衰は世の習いとはいえ、大学の街・京都から古書店がまた一つ姿を消したのはやはり寂しい。(士竪俊一郎)