新しい生活様式
ポストコロナの具体的なイメージはいまだ明確ではない。しかし考えるヒントはある。京都・大原の自然の中で暮らす英国出身のベニシアさんの日常を追うテレビ番組を見て、感じることがあった◆感染症学者の鈴木潤氏は「細菌もウイルスも人類が誕生するはるか昔から地球上に存在していた。人類が自然を破壊し文明社会の範囲を広げてきた中で未知の細菌やウイルスと接触する機会が増えてきた」と言う◆人間が自然の領域を侵したために未知の生命体、あるいは構造体(ウイルスは自己増殖できないが遺伝子を持つ構造体とされる)と遭遇したというのであれば、人類が営々と築いてきた文明社会の生活様式を根源的に変えることでウイルスとの接触を回避できるのではないか◆身の丈に合わせて自然と共生するベニシアさんの生き方にウイルスとの闘いを引き起こす原因は見当たらない。人との距離も、生活のスピードや開放感も、何もかもがゆったりとした時間の中にある。人が密集し、経済活動が渦巻き、目まぐるしく時間が刻まれる都市社会の「3密」状態が生じる条件は何もない◆そう考えていくと、生きる場所を自然の懐の中に定めた自然回帰の姿がポストコロナの生活様式として現実味を帯びてくる。しかし時間を巻き戻すことも文明を後退させることもできない。自然回帰の生活は自らの選択に委ねられている。(形山俊彦)