バチカン大使
一昨年春まで4年間、駐バチカン大使に在任した中村芳夫氏の『バチカン大使日記』(小学館新書)を面白く読んだ。経団連の生え抜きで事務総長・副会長を務め、第2次安倍内閣の内閣官房参与としてアベノミクスを支えた。大使任命は官邸主導の「論功行賞」(日経)と評された◆中村氏自身は「マタイ」のカトリック名を持つ熱心な信徒。主催レセプションにスイス衛兵やバチカン庭園の庭師も招くなど、職務上の義務を越え、積極的に教皇庁に関わる人々と交流を持った◆そうした日常的な話題の他に、本書では「日本とバチカンのビジネス」という独自の視点、日本カトリックへの批判、教皇庁の現場から見た聖職者による性的虐待問題や中国における司教叙階権の問題なども取り上げており、興味深い◆読んで疑問に思った部分もある。教皇フランシスコの訪日実現とともに「日本からの枢機卿選出」が大使としてのミッションだったという記述である◆日本がバチカンと正式な外交関係を結んだのは1942年。太平洋戦争の終結を想定し、教皇庁の宗教・政治的影響力に頼る発想である。本質的に、教皇庁との外交関係は政治と宗教が複雑に絡み合った領域だ。バチカン市国元首の来日はともかく、日本人枢機卿選出は純粋に教会内の宗教問題のはずだが、中村氏が大使の「ミッション」と語る理由もその辺りにあるのか。(津村恵史)